第29回(2019年)全国花のまちづくりコンクール 審査講評
今年も全国から1,543件もの応募がありました。応募くださったすべての方々にお礼を申しあげます。また、日々の花のまちづくりの活動を続けられていることにあらためて敬意を表します。そして、栄えある各賞を受賞されました皆様へ、心からお祝い申し上げます。
イノベーションが花のまちづくりを発展させる
ここ数年、台風をはじめ豪雨などによる激甚災害が度重なり起こっています。台風15号及び19号の猛威は記憶に新しいと思います。被害にあわれた方々にはお見舞い申し上げます。
花のまちづくりは野外での活動が主となるので、天候の影響を免れることはできませんが、強い風雨以外でも真夏の強烈な日差しと高温、都市部においては猛暑日が連続することで土が著しく乾燥し、これらが花壇の草花にとって厳しい状況を招きます。近年では都市部のみならず、緑豊かな田園の広がる地域でもこのような状況となり、花壇づくりを止めてしまうところすらあります。その一方で、きれいな花壇づくりを変わらずに続けている所もあります。その違いはいったい何に起因するのでしょうか。
花のまちづくりでは、毎年同じような花壇づくりを続けているだけでは、厳しくなりつつある環境変化を乗り越えられません。この克服には活動に関わる人が知恵を出し合って、様々な工夫をして花が育つ環境を整え、厳しい条件に耐え得る花の選択が必要で、これに加えて持続可能な組織運営が支えとなります。つまり、常に先を見据えて向上心と向学心をもとにしたイノベーションを図った活動が求められます。イノベーションなくしては、目まぐるしい環境変化や多様なニーズに対応できる活動はあり得ないのです。
大賞受賞者に見るイノベーション
今回の大賞受賞者に目を向けてみると、どの受賞者もイノベーションを図った取り組みが目を引きます。特定非営利活動法人渋川広域ものづくり協議会は花の活動を線から面へと広げ、年3回のお花見イベントを新たに起こし、異なる世代を活動に巻き込むことで世代間交流を活発にさせています。また、活動に絡めて地元の農産物で新しい食品を作り出すなど、花を介したものづくりや関係づくりを地域に定着させ、創造的で多面的な活動をしています。富士市花の会は過去に優秀賞を2回受賞していますが、現状に満足せずに花のまちづくりの先進地へ行って花壇づくりや組織運営などを研究し、会の活動にフィードバックさせ、自身の活動の改善を図っています。アドプト・ロード・万博北は手つかずになっていた道路に沿った緑地で、草花栽培には過酷ともいえる場所でしたが、様々な工夫を凝らして花の生育環境を改善し、ローコストで大面積の花壇づくりと最大限の成果が発揮されています。サンセット一宮花仲間は海水や潮風をまともに被る場所での花壇づくりで、試行錯誤を何度も繰り返すことでこの環境に耐える植物を探し出し、地道でデリケートに植物と接し続けてきたことで、美しい景観に花を添えることができ、活動を広めることに成功しました。長岡市立桂小学校は農村域の小規模校にもかかわらず、それを不利と感じさせることなく、地域と新たに連携することで花の組織が拡大し、小学校が核になった地域活動にまで発展しています。間もなく60年となる活動は3世代を超し、花のまちづくりが地域のDNAとして定着しています。
ここまでお話しすれば、私の申し上げたかったイノベーションの意味が、お分かりいただけたと思います。栽培やデザインの技術革新に加えて、変化への対応力、持続可能な組織運営の掘り起こしに取り組んで行くということに注目したかったからです。
花のまちづくり大賞文部科学大臣賞が新設
今年から花のまちづくり大賞に文部科学大臣から賞をいただくことができました。この賞は幼稚園や学校での花のまちづくりが対象となります。教育機関での花のまちづくりは、コンクールの発足当初より重要なこととして捉え、審査項目では子どもの参加が位置づけされています。幼稚園や学校では若年期に人格の形成と情操を育む花のまちづくりは、体験を通じて子どもたちに地域への郷土愛や愛着心が育まれるだけでなく、地域住民の参画と支援で、地域の一体化が醸成されます。文部科学大臣賞の新設は幼稚園や学校での活動のいっそうの励みになるのではないかと未来への期待が膨らみます。